電験3種の電力分野における電力分野「火力発電所」の対策・計算問題についてまとめました。
火力発電所の種別
種別 | 概要 |
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汽力発電所 | 給水ポンプ、ボイラ、加熱器で高温高圧の蒸気を作り、タービン内に放出して膨張させてタービンを回転させる。仕事をした低温低圧の水蒸気は水に戻って再び給水ポンプに送られる。 |
内燃力発電所 | 内燃機関(ディーゼル機関等)で回転させて発電。 |
ガスタービン発電所 | 燃焼時のガスでタービンを回転させて発電。 |
コンバインドサイクル発電所 | 汽力発電所、ガスタービン発電所を組合せて効率よく発電。 |
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以下の解説動画は非常にわかりやすく、用語のイメージを掴みやすいのでおすすめです。
熱力学の基本
用語 | 概要 |
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湿り蒸気 | 蒸気+細かい水滴の状態。100℃に到達しても、細かな水滴を含んだ状態がしばらく続き、温度が上がりません。 |
乾き蒸気(過熱蒸気) | 蒸気のみの状態。加熱しつけて細かな水滴もすべて蒸発した状態。湿り蒸気の状態で蒸気タービンに放出すると、細かな水滴により部品が錆びて故障の原因となるため、乾き蒸気になるまで加熱してから放出します。 |
飽和温度(沸点) | 液体が沸騰するときの温度。圧力が高いと飽和温度も高くなります。飽和温度にある水を飽和水といいます。 |
顕熱 | 加熱したときに物体の温度を上昇させる熱。 |
潜熱 | 物体の温度を上昇させずに、水から蒸気になるために使われる熱。 |
臨界圧力 | 加圧して潜熱が0となったときの圧力。水の臨海圧力は22.12MPa。 |
臨界温度 | 臨界圧力に到達したときの蒸発温度。水の臨海温度は374.1℃。 |
超臨界圧 | 臨界圧力を超える圧力 |
亜臨界圧 | 臨界圧力より低い圧力 |
エントロピー | 物体や熱の混同度合いを示す値。エントロピーの増加量を⊿s[J/K]、与えた熱量を⊿Q[J]、絶対温度をT[K]とすると、⊿s=⊿Q/Tとなる。 |
エンタルピー | 圧力一定の条件下で、ある物体がもつエネルギーのこと。吸熱するときエンタルピーは正の値となる。エンタルピーをH,物体の内部エネルギーをU。圧力をp、体積をVとすると、H=U+pVとなる。 |
比エンタルピー | 1kgあたりのエンタルピーのこと。 |
熱力学第一法則 | 圧力pが一定の条件下で気体の体積変化⊿Vのとき、気体がする仕事⊿W=p⊿Vとなる。つまり、気体が膨張すると、気体がする仕事は正の値となる。 |
汽力発電所の仕組み
ボイラの主な設備
設備名 | 概要 |
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燃焼室 | 燃焼させた燃料から高温ガスを生成 |
蒸気ドラム | 内部に蒸気部と水部をもち、汽(気)水分離器によって蒸発管からの気水を「水分と飽和蒸気に分離」し、蒸発管へ送水する。自然循環ボイラ、強制循環ボイラに用いられるが、貫流ボイラでは必要としない。 |
再熱器 | 高圧タービンで仕事をした蒸気を再加熱して、中低圧タービンに送るための装置。 |
節炭器(エコノマイザ) | 煙道を通過する燃焼ガスの余熱を用いて、ボイラ給水を加熱。熱効率向上のための設備。 |
空気予熱器 | 煙道を通過する燃焼ガスの余熱を用いて、燃焼用空気を加熱する(※飽和温度以上にはならない)。ボイラの熱効率向上のための熱交換器。排ガス温度は低くなり、排ガスのロスを減少させることが可能となる。 |
安全弁 | 蒸気圧力が一定値を超えたときに弁体を開いて蒸気を放出する。過大な蒸気圧力で機器が破損する防ぐ。ボイラの使用圧力を制限する装置としてドラム、過熱器、再熱器などに設置される。 |
復水器 | 蒸気タービン内で仕事を取り出した後の低圧の排気蒸気(湿り蒸気)を冷却し、凝縮させて飽和水に戻す装置。復水器内部の真空度を高く保持してタービンの排気圧力を低くすることで、蒸気はタービン内で十分に膨張してタービンの羽根車に大きな回転力を与える。つまり、熱効率の向上を図る。なお、熱サイクルの中で復水器によるエネルギー損失が最も大きく、ボイラ入熱の約半分になり、それにより海水温度は約 7 ℃上昇し、一般的な発電所ではこの値で設計されている。 |
空冷式復水器 | 蒸気が通過する配管の外側から送風し、冷却するタイプの復水器。 |
表面水冷式復水器 | 復水器内部に多数の冷却水管を設け、蒸気と冷却水管が水管表面で熱交換するタイプの復水器。 |
混合水冷式復水器 | 蒸気に直接冷却水を噴霧することで冷却するタイプの復水器。 |
通風装置 | 燃焼に必要な空気をボイラに供給し、発生した燃焼ガスをボイラから排出する。煙突だけによる自然通風方式と,送風機を用いた強制通風方式とがある。 |
ボイラの種類
ボイラを水の循環方式によって「自然循環ボイラ」「強制循環ボイラ」「貫流ボイラ」の種類がある。
種別 | 概要 |
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自然循環ボイラ | 蒸発管と降水管内の水の比重差でボイラ水を循環させる。低圧に適しているが、ボイラの高さを高くする必要がある。冷水は比重が大きいため、蒸気ドラムから水が下がり、蒸発管では水が温められて蒸気になり、比重が小さいため上昇する。この原理によりボイラ水が自然に循環する。 |
強制循環ボイラ | 降水管に循環ポンプを付けて強制的にボイラ水を循環させる。高圧にも用いることができ、ボイラの高さも低くでき、急停止ができ、水管を細く(肉厚の薄型化)できるため小型化も可能。 |
貫通ボイラ | 給水ポンプで水圧を加え、節炭器→蒸発管→加熱器と貫いて流す間に過熱蒸気を発生させるため、ボイラ水と蒸気の循環がない。水と蒸気を分離しないため、蒸気ドラムがない。 |
ボイラの違いについては以下の動画がわかりやすいのでおすすめです。
タービンの種類
種別 | 概要 |
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蒸気タービン | 高温高圧の蒸気の圧力で回転羽根を回す機構をもつ。熱エネルギーを運動エネルギー(機械的エネルギー)に変換する。 |
衝動タービン | 羽根に蒸気がぶつかるときの衝撃力でランナを回転させる。 |
反動タービン | 羽根に蒸気が流入するときの衝撃力と、回転羽根から放出される反動力でランナを回転させる。つまり、固定羽根(静翼)で蒸気を膨張させ、回転羽根(動翼)に衝突する力と回転羽根(動翼)から排気するときの力を利用している。 |
復水タービン | タービンから放出された蒸気を復水器で冷やして水にすることで、体積が小さくなり真空度が高まってタービンの回転力を高める。ちなみにに。汽力発電の熱サイクルで最もエネルギー損失が大きいのが「復水器」。 |
再熱タービン | 使用済の蒸気を再加熱して利用することで熱効率を向上させたタービン。 |
再生タービン | タービンの中間から膨張途中の蒸気の一部を取り出し、給水加熱器に送って給水を加熱することで熱効率を高めたタービン。 |
タービン入口蒸気は、熱落差を大きくするため、温度と圧力が高い方が効率は良くなる。
タービンの違いについては以下の動画が参考になります。
保護装置
種別 | 概要 |
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蒸気止弁 | 蒸気タービンの回転速度が定格を超える一定値以上に上昇すると,自動的に蒸気止弁を閉じて,タービンを停止する。 |
燃料遮断装置 | ボイラ水の循環が円滑に行われないとき,水管の焼損事故を防止するため,燃料を遮断してバーナを消火させる。 |
安全弁 | 負荷の緊急遮断等でボイラ内の蒸気圧力が一定限度を超えたとき蒸気を放出させて機器の破損を防ぐ。 |
トリップ装置 | 蒸気タービンの軸受油圧が異常低下したとき,タービンを停止させる。 |
比率差動継電器 | 発電機固定子巻線の内部短絡を検出・保護する。 |
調速装置 | 蒸気加減弁駆動装置に信号を送り、蒸気流量を調整することでタービンの回転速度制御を行う装置。 |
非常調速装置 | タービンの回転速度が運転中に、系統事故等で定格回転速度の111%以上となると作動して、タービンを停止させる装置です。※定格回転速度以下ではない! |
ターニング装置 | タービン停止中に高温のロータが曲がることを防止するため、ロータを低速で回転させる装置である。 |
熱サイクル
種別 | 概要 |
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ランキンサイクル | 水を加熱して高温高圧の蒸気を生成し、タービンを回転させて復水器で冷却して元の水に戻す熱サイクル |
再熱サイクル | 高圧タービンで仕事をして温度が低下した湿り蒸気を、ボイラの再熱器で再加熱して乾き蒸気に変換し、低圧タービンで仕事をさせる熱サイクル(再加熱する点がランキンサイクルと異なる)。 |
再生サイクル | タービンから蒸気を抽気して給水の加熱に利用する熱サイクル(抽気する点がランキンサイクルと異なる)。 |
再熱再生サイクル | 再熱サイクルと再生サイクルを組み合わせたもの。高圧タービンで仕事をして温度が低下した湿り蒸気をボイラの再熱器で再加熱して乾き蒸気に変換し、低圧タービンで仕事をさせ、さらに各タービンから蒸気の一部を抽気して給水の加熱に利用します。再熱再生サイクルが最も効率がよく、大容量の汽力発電所で使われています。 |
状態変化 | 概要 |
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断熱圧縮(①→②) | 給水ポンプで水に圧力をかけている状態。圧力pが増加しても、水は気体のように体積が変化しないため、体積Vは不変(p-V図)。圧力が高くなると、温度Tはわずかに上昇するが、熱の出入りがないため、エントロピーsは不変(T-s図)。 |
等圧受熱(②→③) | ボイラや過熱器で加熱している状態。加圧していないので圧力pは不変。水が蒸気になるので体積Vは膨張(p-V図)。加熱により温度Tが急激に上昇。しばらく温度が不変になっているところは、湿り蒸気(水が沸騰中)の状態なので、熱を受け取っているのでエントロピーsは増加(t-s図)。 |
断熱膨張(③→④) | 蒸気をタービン内に放出し仕事をしている状態。膨張させて仕事をさせるため、体積Vは増加(p-V図)。また、高圧蒸気は低圧蒸気になるため、圧力pは低下する(p-V図)。急激に圧力が下がるので温度Tも低下するが、熱の出入りがないためエントロピーsは不変(t-s図)。 |
等圧放熱(④→①) | 復水器で蒸気を水にしている状態。蒸気が水になるので体積Vが減少する。圧力pはかけていないため不変(p-V図)。温度Tはわずかに下がり(微小なので無視)、復水器によって熱を放出しているためエントロピーsは減少(T-s図)。 |
①復水器から出てきた水を給水ポンプで加圧してボイラへ供給し、ボイラで飽和蒸気になる。
②ボイラから出てきた飽和蒸気は過熱器で過熱蒸気になり、高圧タービンへ送られる。
③高圧タービンで仕事をした蒸気は再熱器で再過熱される。
④再熱器から出た高温再熱蒸気は、低圧タービンへ送られ、低圧タービンで仕事をして復水器で復水に凝縮される。
⑤復水での熱損失を減少させるため、低圧タービン中段から抽気を取り出し、給水を加熱する。
汽力発電所の出力
電力
項目 | 概要 |
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発電端電力PG | 発電機で発電された電力 |
送電端電力Ps | 外部へ送電する電力 |
所内電力PL | 発電所内で使用する電力。発電端電力PGの一部を使用するため、「PG=Ps+PL」が成り立つ。 |
所内率L[%] | 発電端電力PGに対する所内電力PLの割合。「L=100×PL/PG」「Ps=PG(1-L)」が成り立つ。 |
効率
項目 | 概要 |
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タービン効率ηt | タービンへの入力(蒸気エネルギー)を出力(発電機を回させる機械的エネルギー)にどれだけ変換できたかの割合を示す。 |
タービン室室効率ηT | タービン室で失った熱エネルギー(ボイラで発生させた蒸気の熱量)を出力(発電機を回させる機械的エネルギー)にどれだけ変換できたかの割合を示す。 |
公式
(1)
パラメータ | 概要 |
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ηB | ボイラ効率[%] |
ηt | タービン効率[%] |
ηT | タービン室効率[%] |
ηG | 発電機効率[%] |
ηs | 送電端効率[%] |
Z | 蒸気量[kg/h] |
H | 燃料発熱量[kJ/kg] |
B | 1時間あたりの燃料消費量[kg/h] |
hs | ボイラ出口の蒸気の比エンタルピー[kJ/kg] |
hw | 給水の比エンタルピー[kJ/kg] |
Pt | タービンの機械的出力[kW]=[kJ/s] |
PG | 発電端電力[kW]=[kJ/s] |
PL | 所内電力[kW]=[kJ/s] |
L | 所内率[%] |
復水器の損失
復水器は、蒸気(気体)を水(液体)に戻し、体積を激減させて復水器内を真空に近い状態にします。
これにより、蒸気をタービンの入口から出口(復水器入口)に向けて流すことができ、熱効率が向上しますが、同時に蒸気を水に戻すために捨てられる熱量(損失)も大きくなります(最も大きなエネルギー損失が生じるのが復水器)。
つまり、復水器の損失とは「復水器の冷却水が持ち去る熱量」を意味します。
復水器の冷却水が持ち去る熱量[kJ/s] = 流量[m3/S] × 比熱[kJ/(kg/K)] × 密度[kg/m3] × 冷却水の温度上昇[K]

【電験3種】電力分野「火力発電所」の出力に関する例題
電験3種の電力分野における電力分野「火力発電所」の対策・計算問題についてまとめました。
汽力発電の燃料と環境対策
種別 | 環境コスト | 費用コスト |
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石炭 | △ | ◎ |
石油 | ○ | △ |
LNG | ◎ | ○ |
廃棄物 | 対策 |
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硫黄酸化物(SOx) | ・硫黄分の含有量が少ないLNG等の燃料を使用 ・硫黄酸化物を粉状の石灰と水の混合液に吸収させる煙「排煙脱硫装置」を煙道に設置する。 |
窒素酸化物(NOx) | ・窒素分の含有量が少ない燃料を使用する ・燃焼温度を低くする ・燃焼用空気の酸素濃度を低くする ・窒素酸化物を触媒とアンモニアを利用して窒素と水に分解する排煙脱硝装を設置する。 |
煤塵 | ・燃料と空気を適切に混合する ・煤塵をマイナスに帯電させ、煤塵の粒子をプラス極に集めて除去する「電気集塵器」を設置する。 |
用語 | 概要 |
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電気集じん装置 | 火力発電所で発生する灰じんなどの微粒子を除去する装置。一般的に、集じん電極である平板電極の間に放電電極である線電極を置いた構造である。電極間の高電圧によって発生したコロナ放電により放電負極で生じた負イオンで微粒子を帯電させ、クーロン力によって集じん電極で捕集する。集じん電極に付着した微粒子は集じん電極を槌でたたいて取り除く。 |
接触還元法 | 排ガス中にアンモニアを注入し、触媒上で窒素酸化物を窒素と水に分解する。 |
湿式石灰石(石灰)-石こう法 | 石灰と水との混合液で排ガス中の硫黄酸化物を吸収・除去し,副生品として石こうを回収する。 |
二段燃焼法 | 燃焼用空気を二段階に分けて供給し,燃料過剰で一次燃焼させ,二次燃焼域で不足分の空気を供給させ,窒素酸化物の生成を抑制する。 |
排ガス混合(再循環)法 | 燃焼用空気に排ガスの一部を再循環、混合することで燃焼用空気の酸素濃度が下がり、燃焼温度を下げることで窒素酸化物の生成を抑制する。 |
総発熱量[kJ] = 燃料消費量[kg] × 燃料発熱量[kJ/kg]
項目 | 概要 |
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総発熱量 | 燃料を完全燃焼させたときに発生する熱量 |

【電験3種】電力分野「火力発電所」の燃料と環境対策に関する例題
電験3種の電力分野における電力分野「火力発電所」の燃料と環境対策・計算問題についてまとめました。
その他(コンバインドサイクル発電など)
用語 | 概要 |
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コンバインドサイクル発電の特徴 | ・起動停止時間が短く、負荷追従性が高い(ガスタービンを用いない同容量の汽力発電と比較して)。 ・復水器の冷却水量が少ない(ガスタービンを用いない同容量の汽力発電と比較して)。 ・ガスタービン入口温度が高いほど熱効率が高い。 ・部分負荷に対応するための、単位ユニットの運転台数の増減が可能なため、部分負荷時の熱効率の低下が小さい。 |
燃焼用空気 | 燃焼用空気は空気圧縮機、燃焼器、ガスタービン、排熱回収ボイラ,蒸気タービンを経て、煙突から排出される(蒸気タービンは通過しない)。 |
タービン発電機の水素冷却方式 | 水素ガスは,空気に比べ比熱が大きいため冷却効率が高い。また、空気に比べ比重が小さいため風損が小さい。水素ガスは、不活性ガスであるため、絶縁物への劣化影響が少ない。水素ガス圧力を高めると大気圧の空気よりコロナ放電が生じ難くなる。水素ガスと空気を混合した場合、水素ガス濃度が一定範囲内になると爆発の危険性があり、これを防ぐため自動的に水素ガス濃度を90%以上に維持している。通常運転中は,発電機内の水素ガスが軸に沿って機外に漏れないように軸受の内側に油膜によるシール機能を備えており,機内からの水素ガスの漏れを防いでいる。 |
【特徴】

【電験3種】電力分野の頻出項目、攻略法、例題
電験3種における電力分野(発電所及び変電所の設計及び運転、送電線路及び配電線路(屋内配線を含む。)の設計及び運用並びに電気材料に関するもののポイントをまとめました。

【電験3種とは】出題範囲と対策まとめ
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